なんでこんなことをしているのか、自分でも解らないんだ


注意!

都合によりカレンが男子寮にいます。つまり男として友情出演。
そんでもってリヴァルが主人公以上に出張ってます。

例に洩れず、生徒×教師シリーズの続編。



【8】

 ルルーシュは、視線だけでそっと盗み見た。盛り上がる周囲を見回して、ふっとスザクの顔色を伺おうとするがこの位置からは良く確認する事は出来ない。が、瞬間よぎる冷たい空気は、暗にそれがスザクの中で禁止事項の話題(それも上部に位置する)なのだろうことは推測できた。その冷たい視線はまさしく一瞬で終わり、いつものにこやかな笑顔に戻ったスザクは気の良い笑みで立ち上がった。
「彼女じゃないから。今行くよ。」
 そう否定して、スザクは部屋を出る。周りは皆冷やかしやら悔し涙やらで、さっきよりもテンションは上がったように感じた。暫く「貢物」と称された酒を租借していたルルーシュは、校門へと出て行くスザクの後姿を窓から確認した。校門の外には女子生徒が数人、スザクを待っていた。
 ふと、思う。
 見慣れた彼の姿は大抵背中越しだった。
 それに深い意味がある訳ではない。ただ、何処か虚しさを感じているのも事実で、ぼんやりと窓からその背中を見つめていれば、何を感知がいしたのかリヴァルが後ろからひょっこり顔を出した。
「先生も気になる?」
「いや、俺は別に、」
 そう言ってまた横目で見やれば、ざっと数えて5人ほどだろうか。ここからでは何をしているのかは確認出来ないが、彼女達と何か談笑しているようだった。誕生日なのだから、何をしているかは大体想像がつくが。
「あれ、皆スザク狙いだぜ。流石モテる男は違うよな。」
「……はあ。」
 あきれ半分、興味半分で、リヴァルの説明を方耳で聞いた。まあ、モテるというのは解る。ああいうキャラ(あえて、意図的にキャラクターと言わせてもらう)は、いつの時代でも年若い女子生徒の憧れの的だ。顔よく、かっこよく、賢く、エリート、なおかつ優しいーーと言いきる事に若干の腹立たしさも覚えるが、それにしたってお約束な展開だ。しばらく、することもなかったので勝手に設置されたゲーム画面をぼんやりと見つめていた。
 特に、スザクとルルーシュの間柄は口止めの範囲だったはずだ。それ以上も、ましてやそれ以下もない。言うならば共犯者。はっきりしていてしっかりしない教師と、しっかりしていてはっきりしない生徒。それが、いつからか互いの存在に依存するようにもなり、気がつけば、この覚束無い感覚が身に馴染んでしまって。
「御帰還ー!!スザク、どうだった!?」
「どうって、普通だよ。プレベント貰って、御礼言って。」
 皆、その小包に好奇心の視線を投げてよこし、スザクは小さく苦笑してそれを机に放置した。
「開けて良いよ。」
 いいのか。
 そんな台詞が頭を過ぎったが、特に口出しをする必要もないだろうと敢えて口を噤む。普通ならプライバシーとか、恥じらいとか、何かこう、オブラートに包む感情があるものだが、この枢木スザクにそんな概念はまったくない。らしい。内心呆れて、その成り行きを見守る。
「……手作りっぽいケーキ!しかも手紙入り!」
「おぉー!」
 まあ、妥当だろう。よくある、それこそ定番の品。手紙の内容なんて見なくても凡その察しはつく。どうせ、これか、あれか、それか、のどれかだ。
「……っ。」
 ふと、スザクと目が合った。反らす事も出来ずにルルーシュはただ見つめ返す。

 一瞬のような、それでいて永久にも思える時間を壊したのは、意外にもスザクだった。ふいと視線を反らして、まるで何事もなかったかのようにスザクはリヴァル達の輪へと溶けていった。




【9】

 深夜4時、三階の自販売室の奥にある階段を昇った先でひそかに落ち合うことが、不思議なことに日課になりつつあった。寝ていても、自然に目が冷める。自販機のジュースを渇望している、よく解からない渇きがスザクを突き動かしていた。
 そして自販機に凭れるようにして、友人達に明け渡したままノータッチだった手紙に指を這わせれば、愛しさどころか行き場ない破壊衝動さえも呼び起こしてしまいそうだ。そして、結局行き着く先に恋愛がないことをスザクは悲しく思う。それも、思うだけ。もう随分と前に、自分の本心は読めなくなってしまっていた。
 スザクは紙をぐしゃりと握り潰す。その瞬間、ルルーシュが無表情のままこちらを見ていることに気がついた。廊下の奥で、ゆらりと人影が舞う。近づく足音に凄みもせず、ただ毅然と受け止めた。
「……先生。」
「それ、さっきの手紙だろ。」
「うん。」
 言われて視線を落とせば、無残な紙くずへと成り下がったそれが手の中で悲鳴を上げている。しったことではない。その返事としては、鬱陶しい、煩わしい、面倒臭い、しつこい、腹立たしいのどれか。いや、全部当てはまるか。
「要らないから。」
 いらなかった。本当にいらなかった。近寄ってくる女子に悪びれもなく思う。スザクが望んでいるものは、そんな簡単な関係ではない。もっとシビアで、もっと手軽で、もっと気楽だ。言うならばルルーシュそのものでもある。
「ほら、見てよこれ。」
 箱の中に入ったケーキ。市販のものよりも均等化されていない歪なそれは、見ただけで判る。
「……手作りじゃないか。」
「こんな事までしてさ。馬鹿だよ。」
 スザクはこんなことでは動かない。押し付けられても、受け止めるだけの寛容ささえ持ち合わせていないのだ。そして拒否すれば、どうして、と泣いていく。理解できない。そっちが勝手にやったことだろ、と言い切れるのならばどんなに楽か。
「…そうかもな。」
「否定しないんだ。センセイなのに。」
 ルルーシュは小さく肯定した。普通ならそこで否定するような気がする。それは相手に失礼だ、とか、なんかそんなことを言われるはずだ。それを、彼は肯定した。
「真面目な教師なら、酒を持ってきた時点で怒鳴るさ。」
 そういうものだろうか。ルルーシュはスザクを冷たいと言う。しかい、スザクはそんなルルーシュもまた、酷く残酷な人間なのだろうと結論付けていた。そういうものかもしれない。そんな気さえしてくる。
「リヴァル達からのは棄てないんだな。」
 投げかけられた疑問に、スザクは、珍しく正直に答えた。
 それが良いと思った。それだけだ。他意はない。
「あれは友達だから。」
 他意はない。ただ、思う。きっとルルーシュと自分の価値観、概念、理想、根拠、所以、所業、根底、全てが恐ろしいほどに近しいというだけ。
「友情なら良い。けど恋愛感情は要らない。」
 それが良いと思った、だから、スザクは素直に答えた。ルルーシュなら解ってくれる、そんな確信があったから。


「…我が儘、だな。」
 ルルーシュはそれだけ言った。どちらともつかない返答にスザクは小さく笑う。
「かもね。先生、」
 そういって、目前に立っていたルルーシュの手を掴み引き寄せる。バランスを崩して倒れこんだルルーシュを受け止めて、スザクはその耳に舌を這わせた。くちゅ、と溢れる唾液がルルーシュの鼓膜をリアルに刺激する。
「な…っ」
 抵抗を無視して、スザクは耳朶を甘く噛み、舌を差し込んで舐め上げる。
「や、やめ…!スザクッ、」
 ルルーシュはスザクを押し返して、真っ赤になった顔を隠しもせずに、その深い緑の瞳を見つめた。
「その、」
「…先生?」
 迷うようなルルーシュの逡巡を見て取って、とりあえずスザクは動きを止める。自販機の点灯だけが支配する空間は、心地よいほどに殺風景で現実的だ。少し、落ち着きを取り戻したのか、ルルーシュは少しだけスザクを見上げてから、コートのポケットに無造作に突っ込まれた小さい袋をスザクに押し付けた。ラッピングもされていないそれは、普段どおり店で梱包しているものである。
「俺からなら、どうなるんだ。」
「…え、なにが、」
 わざわざケーキを買いに行った帰りに寄った。と、自棄になったのか自嘲気味にはき捨てて、ルルーシュは立ち上がる。スザクの手に残されたそれは、つまり。
「棄てても構わないから。」
 そう言い捨てて、ルルーシュは逃げるようにその場から離れた。スザクは、しばらく動けずに手の中のそれを凝視する。ケーキを買いに行った帰りに、わざわざ、スザクのために。


 それは、つまり。





20070923
思ったより更新が遅れました。
先生からの誕生日プレゼントをゲットです。