ああ、祝ってやるさ。それがお前の望みなら。


注意!

都合によりカレンが男子寮にいます。つまり男として友情出演。
そんでもってリヴァルが主人公以上に出張ってます。

例に洩れず、生徒×教師シリーズの続編。



【6】
 教師というのは大なり小なり生徒のプライベートを知っているものだ。いや、プライベートは彼等が教師を信用していればの話だが、少なくともそれなりの個人情報は握っている。身長、体重、家族構成、住所、親の名前、重要なものとしては成績まで、あくまで「数値」としての情報でしかないが、知らなくてはならない情報を預かっている。
 しかし、だ。
 そんなもの、イチイチ知るはずないだろう。


 昨夜、夜遅く、と言うか、朝早くまで経理の本を読み耽っていたルルーシュは見事に寝過ごした。時刻は疾うに昼であり、朝食を食いはぐれてしまったが、徹夜明けの胃は全てを拒絶するように食欲もない。元々低血圧なだけあって朝は苦手だったが、翌日が休日という事も手伝って夜更かしを過ぎたかもしれない。とりあえず朝の珈琲という気分でもなく、水くらいは飲もうとふらふらと寮の食堂へと向かった。小夜子さんがキッチンにいれば、胃に優しい軽食でも作ってくれるかもしれない、という期待も込めて。
 途中何人かの生徒とすれ違ったが、皆笑いを堪えているようで、挨拶にしてもいつもよりテンションが高いような。が、特に気にする事もなく、とりあえず水分を求めてルルーシュは食堂の扉を開けた。
「……。」
 そこには、何故か高校3年の寮生達が勢ぞろいして、異様な盛り上がりをみせている。食堂唯一のテレビには勝手にゲーム機が大量に持ち込まれており、机の上には無駄に多い菓子類が。生徒達は入ろうとして足を硬直させているルルーシュを発見して其々に挨拶をしてきた。
「あ、先生!おはよー。」
 リヴァルが果敢にも近寄って、ルルーシュの肩を叩く。馴れ馴れしいその動作を右手で払い落として、一同に尋ねた。
「……何の騒ぎだ、これは。」
「何って、」
 きょとん、としたリヴァルは急に満面の笑顔をつくり、奥で困ったように笑う我らが優等生枢木スザクを指し示した。どこからともなく、「パンパカパーン」という効果音まで誰かがつけて。
「御覧の通り、我らが枢木スザク君のお誕生日会(笑)でーす。」
 かっこわらい、まで態々口で言い切って、食堂に集まった生徒達はまた異様な盛り上がりをみせている。良い年した男子が揃いも揃ってお誕生日会。正直これがウチの生徒なのかと思うと泣けてくる。最初に言っておくが、断じて嬉し涙ではない。仮にも教師、仮にも寮の監督としては、これはちょっと情けなかった。
「……朝っぱらから元気だな。」
 とりあえず、そういい竦めてルルーシュはキッチンに入りミネラルウォーターを取り出す。全寮制ではなく、家庭の事情で通学困難な者のための施設だから人数はそんなに多くはない。が、健康な男子20人程が一同に集まって盛り上がる、というのは正直暑苦しかった。
「普段遊ばないかわりにさ、こういうイベントは盛り上がらないとな!」
「……勉強に疲れただけだろう。」
 指摘すれば、図星だったのか受験生達は気まずそうに笑った。それにリヴァルが喧しく反論する。
「いや。友人、共に生活をする仲間としては生誕記念日を祝うものなんだよ。そう決まってんの。」
「別に断言までしなくても…」
「カレン、もっと言ってやれ。」
 唯一、輪の外で苦笑してリヴァルに突っ込んでいたカレンに近寄り、その隣に座る。カレンはまた苦笑して、お疲れ様です、と机においてあったチョコレート菓子を手渡してくれた。ああ、癒しだ。
 ちらり、と横目でスザクを見れば、リヴァルを筆頭として皆から誕生日プレゼントと思しきものを渡されていた。カレンはルルーシュに「全員持ってくるようにメール回ってたんです」と耳打ちした。見ていれば、明らかに使いさしの文房具グッズ(おそらく冗談でだろう)を持ってきている者や、ゲーセンで取ったは良いが使い道もなく部屋に放置されていたぬと思われるぬいぐるみなど、呆れるような物が目立つ中で、カレンの手元にはきちんと包装されている箱があった。
「流石、カレンは丁寧だな。」
 ルルーシュがそう褒めてやれば、カレンは楽しそうに笑って席を立ち、スザクの方み歩いていった。スザクも何だかんだ言って、適当に集められたプレゼントをそれなりに面白がって楽しんでいるようにも見える。
 おそらく一時のノリとテンション、そして冗談と「カッコワライ」で企画されたのであろう子供みたいなこの「お誕生日会」は、不思議とそれなりの青春にも見えてくる(いや、恐らく見間違いだろうが、かくいうルルーシュも雰囲気に飲まれつつあるのだ。)こういう馬鹿みないなイベントをノリで実行出来るのも、まぁ悪くはないのかもしれない。
「俺からもな。」
「ありがとうリヴァル。」
 二人の会話を聞き終えて、ルルーシュは使ったコップを洗いに立ち上がった。時だった。
「先生は?」
「………は?」
 突如、後ろから投げかけられた台詞にルルーシュは硬直する。恐る恐る振り返れば、リヴァルが意地汚い笑みを浮かべてふらりと寄って来た。
「いやこういうイベントに教師が参加しないって道徳的にどうよ。」
「お前、今すぐ「道徳」を辞書で引いてこい。」

「…というか、第一生徒の誕生日なんて知るわけないだろ。用意もしてないし、アテもない。」
「俺らみたいに使い古しでも良いんだぜー?」
 その言葉に内心抑え切れない突っ込みを秘めつつ、ルルーシュは振り切ろうと顔を背ける。そうしたら、不意にスザクと目があった。とてもニコヤカだ。ああ、良い笑顔だ。良すぎて気持ち悪い。途端、ルルーシュは背筋が凍り、冷や汗が流れた。その視線があまりにも意味不明、かつ意味深で、初めてスザクに恐怖する。
 さっきまでプレゼントを貰っていた時よりも断然深い笑みは、暗にルルーシュに命令しているようでもあり、それとも出せるものなら出してみろと言わんばかりの挑戦的な視線にも思える。
「とにかくルルーシュも参加しよぜ。な。」
「呼び捨てにするな馴れ馴れしいっ…!」
 リヴァルの台詞にルルーシュははっとして振り返って反論する。
「渡せるもん何かあるんだろ?」
「ないな。第一、何で俺が」
「実は部屋にあったり。」
「ない。全くない。ないもんはない。諦めろ。」
 そう捲くし立ててルルーシュは背中に張り付いていたリヴァルをべりべりと引き剥がした。
「なら先生。ケーキ買いに行こうぜ。」
「……は?」
 突然の申し出にルルーシュは呆気に取られてリヴァルを見つめる。周りの生徒も意を解したように頷き合って笑いを堪えていた。カレンが代表して口を開く。
「資金出し合って、ホールで予約してあるんです。」
「それが、何で、」
「自転車だと潰れるし、誰かジャンケンに負けた奴が歩いて取りにいくって話になってたんだけどさ。先生、車出してよ。それでチャラって事で。」
 そう言ってリヴァルはにっこりと笑った。ルルーシュは生徒の視線を一斉に浴びて、ぐるりと見回す。居心地の悪さにかっと染まる頬を何とか制して、ぐっと堪えてリヴァルを睨んだ。よく見ればルルーシュよりもリヴァルの方が背が高い。何なんだ、コイツにしろスザクにしろ、遊ばれているような気がしてならない。
 カレンが財布の中から一枚の予約表を取り出してひらりとルルーシュに見せた。良くは見えなかったが、値段や名前が書いてあるのを確認して、それが冗談ではないと納得する。いや、納得出来るものではないが。
 ルルーシュは精一杯睨み付けた。運転出来るのは年上の俺だけだ、と自身を無理矢理言い聞かせて。
「……………………………………何処のケーキ屋だ。」
 最近、自分の尊厳がないような気がしてならない。




【7】

 別にここまでして貰わなくても良かったのだが、普段滅多にやらない事をやろうとすると総じて訳の解らないテンションになるらしい。若さ故。つまり、そういう事なのだ。
 お菓子にジュース、酒まで持ち合って、宴会はもはや本来の目的を喪失していた。が、それで良いと思える自分が此処にいる。祝って欲しい年でもなければ、誕生日という365分の1の日に大した意義も見出せないスザクには、自身のそれよりも、それを理由にして皆が騒げる今のこの環境が幸せに思えたから。
 ただ、今年は。今年は、此処にルルーシュがいた。
 本当にそれだけなのに、叫びたいような、それでいて静かな衝動がスザクの中に芽生えていた。友人たちの歓迎もさることながら、高校生活最期の夏にかの教師が共に居てくれるこの充足感をスザクは知らない。それは、恐らく今まで自身が自分で否定してきたもののような気がした、知りたいとも思わない。ただ、満ち足りている。それだけが一種の喜びである。しかし、認めてはいけない存在をスザクの中に根付かせた事に苛立ちをも覚え、相反する感情を内心で持て余していた。
「ルルーシュ先生がお戻りになったぞー!」
「……。」
 その台詞に、皆が一斉にドアをみやる。情けなく、両手にケーキの箱をぶら下げた教師(と呼ぶには扱いが友人のそれであるが)は部屋に歩み寄った。オプションに、その端正な顔を歪めて笑っている。眉間の皺がいつも以上に深いのは気のせいではないだろう。
「そう嫌そうな顔すんなって。」
 リヴァルがそう嗜め、ルルーシュは小さく嘆息し箱をカレンに押し付けた。ほのかに漂う甘いクリームの香りが、スザクの鼻腔を擽った。
「…ほら、これで良いんだろ。」
「ケーキィィ!!」
「言っとくが、今日だけだからな!明日からは受験勉強に勤しめよ、受験生。」
 と、ルルーシュは必死に声を張り上げるが、テンションのボルテージが最高潮に達した彼等にその台詞は十中八九届いてはいないだろう。それも解っているのか、ルルーシュはどさり、とパイプ椅子に腰掛けた。カレンだけが、そっとルルーシュの前の机にお茶を汲んでいる。相変らず、カレンは良く出来た人だ。
 スザクはルルーシュを見つめ観察した。何だかんだ言って、生徒達の青春と呼ぶには拙いそれを、苦々しく思っているのかと思いきや、そっと細められる瞳には優しさが滲んでいた。隣に佇むカレンがそれに気付き、ふっと笑う。
 その瞬間、其処は最早スザクには立ち入れない世界に思えた。
 ぐっと堪える何かに必死に耐える。込み上げる苛立ちを隠さなくてはいけない。隠せ。それは見せてはいけないものだ。それでも、それでもその二人の様子は手の届かない所にあるような気がして。
 数週間前に屋上で強姦じみた行為をした人間には与えられない、確固たる信頼が。
(…だから何だと言うんだ)
 手前に置かれていたテレビゲームのコントローラーを、こっそり爪で引っ掻いた。
「ささ、先生もどうぞどうぞ。」
「……って、酒じゃないか。」
 不意に耳に入るリヴァルとルルーシュの親密な台詞にふと我に返る。
 ルルーシュは呆れながらも、しっかりと酒を没収していた。一応、あれはルルーシュのために先ほど自販機で買った物だから支障はないのだが。
(なんだかなぁ。)
 ぐっと伸びをして、疲労感を解消しようと切り分けられたケーキに手を付けようとしたとき、不意に、ドアに入ってきた同級生が自分の名を呼んだ。
「スザク、彼女来てるぜ。」



070831
中途半端なところで途切れたけどもう良いです。次回にまわす笑